うつ病の古典的臨床分類
わが国のうつ病患者の総数は90万人を超え、この20年間で10倍に増加した。うつ病の古典的臨床分類は次のとおりである。なお、下記リストの( )内は、DSM5の診断名である。
1. 内因性うつ病
単極性うつ病(大うつ病)
双極性うつ病(1型と2型双極性障害)
2.神経症性うつ病
3.反応性うつ病
4.脳器質性・症候性うつ病
その他にキールホルツの分類、笠原・木村の分類、DSM-Ⅳによる分類、ICD10による分類などがある。近年ではうつ病の原因よりもその症候を多軸評定する分類へと移行しているようである。
うつ病の中核となる症状は、気分の落ち込み、すなわち抑うつ気分である。気分が重い、寂しい、悲しい、すべてがむなしい、涙もろくなった、などの訴えがある。
うつ病の精神症状には、抑うつ気分の他に興味や喜びの減退、倦怠感、気力低下、集中力低下、焦燥、制止、仮性認知症、うつ病性昏迷、微小妄想、罪業妄想、貧困妄想、心気妄想などがある。
うつ病の身体症状には、自律神経症状を中心とする症状が出現し、心気傾向を伴うと身体面の愁訴を繰り返しやすい。入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒などの睡眠障害が出現する。食欲低下、便秘、口渇などの消化器系症状の訴えも多い。身体症状が前面に出ているうつ病を仮面うつ病という。
うつ病と自殺との密接な関係は以前より指摘されている。自殺者の3分の1が精神病徴候を示し、その3分の1がうつ病であるとの報告もある。さらに1960年頃からの調査によると、自殺者の30~70%がうつ病の診断にあてはまるという報告もある。うつ病は精神疾患の中でもっとも自殺率の高い疾患である。
一般にうつ病の病初期と回復期に自殺が起こりやすいといわれている。回復期と病初期は気分変動が激しい時期である。また自殺企図は焦燥感が強いときと精神運動抑制が軽減する時期に多い。特に回復期は、周囲の油断、復職の負担感などから自殺が起こりやすい。うつ病の極期は、精神運動抑制が強く、自殺念慮を内に秘めていても行動に移すことが困難であるとされているが、極期にも自殺念慮はあり自殺の可能性があることは否定できない。
うつ病の自殺の50%が初回入院後1年以内に起こるとの報告もある。うつ病の自殺は発病後の1年以内に最も多く、徐々に低下していくといわれている。
うつ病の自殺の危険因子としては、不安焦燥感、不眠、意識障害、認知症、重い自責感、孤独感、絶望感、身体疾患、心気妄想、自殺企図、自殺念慮などがいわれている。