疾患概念・原因
骨粗鬆症とは、骨基質と骨塩の比が一定のまま、骨量が減少した状態、つまり骨質は正常で骨絶対量が減少する病態をいいます。すなわち骨に鬆が入った状態になる病気です。骨が脆くなるため、わずかな衝撃でも骨折を起こしやすくなります。つまり骨折リスクが増大した状態です。WHOでは、次のように定義しています。



骨粗鬆症は、低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患である。

骨粗鬆症は、加齢や閉経により起こる原発性骨粗鬆症と、病気や薬剤の影響により起こる続発性骨粗鬆症とに分けられますが、骨粗鬆症の大部分は原発性骨粗鬆症です。骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会 「骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン2006年版」ライフサイエンス出版からは、次のように分類されています。



(1)原発性骨粗鬆症
閉経後骨粗鬆症
男性骨粗鬆症

(2)続発性骨粗鬆症

骨量の減少は、骨吸収が亢進し骨形成が低下した場合、あるいは骨形成が骨吸収に追いつかない場合に発生すると考えられています。続発性骨粗鬆症の原因となる疾患には、副甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患、関節リウマチ、動脈硬化、CKD(慢性腎臓病)、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、糖尿病などが考えられています。また薬剤では、ステロイド性骨粗鬆症が有名です。

骨粗鬆症の診断は、骨密度が若年成人平均値(young adult mean; YAM)の70%未満を骨粗鬆症と診断します。なお、脆弱性骨折がある症例では、YAMの80%未満が診断基準となります。骨密度の測定は、原則として腰椎または大腿骨近位部で行います。

骨折の危険因子としては、次のようなものが考えられています。

  • 低骨密度
  • 既存骨折
  • 喫煙
  • 飲酒
  • ステロイド剤使用
  • 骨折家族歴
  • 運動不足
骨折発生後の死亡の相対リスクは、大腿骨頚部骨折と椎体骨折で特に高く、それぞれ6.7倍と8.6倍との報告があります。おそらくこれら骨折からの寝たきり状態が、高齢者の廃用性症候群を促進させて、さまざまな合併症から死亡にいたるものと考えられます。

骨折危険因子による骨折危険性の定量的評価法として、WHOによる骨折リスク評価ツール(fracture risk assessment tool; FRAX)が2008年に開発され、治療開始基準となっています。骨量減少においてFRAXの10年間の骨折確率が15%以上が基準です。

(参考)
FRAX 骨折リスク評価ツール





疫学・症状・経過

 65歳以上の女性の約50%は、程度の差こそあれ骨粗鬆症と診断されます。女性に多いのは、閉経による女性ホルモン の分泌低下が骨密度を低下させるからです。体の生理的変化に加え、遺伝的要因や栄養不良、体を動かさずに過ごすといった生活習慣も骨粗鬆症の発症に寄与し ています。 最も問題となる臨床所見は、背部痛と易骨折性です。骨折の好発部位は、椎体、大腿骨近位部、橈骨遠位端、上腕骨遠位部などです。

検査・診断

 閉経後の女性で、背部痛をきたし、血液検査で血清Ca、P、ALPが正常で、骨X線検査にて透過性亢進、骨梁の減少、魚椎や楔形椎などの骨変形、圧迫骨折がみられたとき、閉経後骨粗鬆症を疑います。

 二重X線吸収測定法(dual energy X-ray absorptiometry; DXA)や定量的CT検査(quantitative CT; QCT)などにて骨塩量減少を客観的に証明することで診断されます。

治療・予後

 骨粗鬆症の治療には、栄養療法、運動・生活療法、薬物療法、理学療法の4つの方法があります。栄養療法で は、乳製品、小魚、海藻、黄緑色野菜の摂取をすすめ、P、蛋白、Na、炭酸飲料などの過剰摂取を避けます。  薬物療法では、乳酸カルシウムなどのCa剤投与、腸管からのCa吸収を促進し骨形成を促進する1α-(OH)-ビタミンD3の投与、骨吸収を抑制するカ ルシトニン、イプリルラボン、エストロゲンの投与などを行います。カルシトニンは、骨粗鬆症に伴う疼痛を改善する作用もあります。

 またヒト型モノクローナル抗体であるデスノマブが、2013年3月に製造承認されました。この薬剤は破骨細胞の働きを抑制する作用があり、6ヶ月に1回の皮下注射で効きます。

 女性ホルモンは、骨吸収促進作用のあるIL-1 やIL-6の分泌を抑制し、破骨細胞のアポトーシスを促進する形質転換増殖因子-β(TGF-β)の産生を促進するため、閉経後女性ホルモンが低下すれば骨量の減少を起こします。 ちなみに骨塩濃度は30〜35歳がピークで、女性では閉経を境に急激な減少を示します。

(参考)
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版
Cauley JA, et al : Osteoporos Int. 11, 556-561, 2000