診断のための必須項目としては、甲状腺中毒症(thyrotoxicosis)の存在(遊離 T3 および遊離 T4の少なくともいずれか一方が高値) があることであるが、実際には次のような臨床症状から診断する。
- 中枢神経症状
不穏、せん妄、精神異常、傾眠、けいれん、昏睡。
(Japan Coma Scale (JCS)1 以上または Glasgow Coma Scale (GCS)14 以下) - 発熱(38℃以上)
- 頻脈(130回/分以上)
心房細動などの不整脈では心拍数で評価する。 - 心不全症状
肺水腫、肺野の50%以上の湿性ラ音、心原性ショックなど重度症状。
(New York Heart Association (NYHA)分類 4 度または Killip 分類 III 度以上) - 消化器症状
嘔気・嘔吐、下痢、黄疸(血中総ビリルビン > 3mg/dl)
ただし、明らかに他の原因疾患があって発熱(肺炎、悪性高熱症など)、意識障害(精神疾患や脳血管障害など)、心不全(急性心筋梗塞など)や肝障害(ウイルス性肝炎 や急性肝不全など)を呈する場合は除く。しかし、このような疾患の中にはクリーゼの誘因となるため、クリーゼによる症状か単なる併発症か鑑別が困難な場合は誘因に より発症したクリーゼの症状とする。
なお、高齢者は、高熱、多動などの典型的クリーゼ症状を呈さない場合があり (apathetic thyroid storm)、診断の際注意する。 甲状腺クリーゼの確実例と疑い例の診断は次のとおりに行う。
確実例
必須項目および以下を満たす。
a.中枢神経症状+他の症状項目1つ以上、または、
b.中枢神経症状以外の症状項目 3 つ以上
疑い例
a.必須項目+中枢神経症状以外の症状項目2つ、または
b.必須項目を確認できないが、甲状腺疾患の既往・眼球突出・甲状腺腫の存在 があって、確実例条件の a または b を満たす場合。
甲状腺クリーゼでは誘因を伴うことが多い。甲状腺疾患に直接関連した誘因とし て、抗甲状腺剤の服用不規則や中断、甲状腺手術、甲状腺アイソトープ治療、過度の甲状腺触診や細胞診、甲状腺ホルモン剤の大量服用などがある。また、甲状腺に 直接関連しない誘因として、感染症、甲状腺以外の臓器手術、外傷、妊娠・分娩、副 腎皮質機能不全、糖尿病ケトアシドーシス、ヨード造影剤投与、脳血管障害、肺血栓塞栓症、虚血性心疾患、抜歯、強い情動ストレスや激しい運動などがある。